いままでにスケジュールQSOを数局と組んだことがある。
最初にスケジュールしたのはカルフォルニアの局だった。
その頃は DXCCを追いかけるために毎晩遅くまでQSOしていたのだが、集めたQSLカードを見せながら「世界中と交信が出来るんだ」と友達に自慢したところ、 「じゃ、世界中に友達がいるんだね」と言われてぎょっとした。
レポート交換をするだけだから誰一人として外国に友達などいなかったからだ。
それがきっかけとなって考えを変えた。
珍局を探すのではなく、海外局とラグチューすることに方針を変えたのだ。
英語は得意ではない。
でも、僕にとっては日本語ぺらぺらの外人はつまらなくて、日本語を少し話せるくらいの外人が一番面白かったから、英語をちょっとだけ話せる日本人は英語圏の人にとって面白いはずだと、勝手に解釈して堂々とやることにした。
これをやるにあたって、一つ教訓があった。
日本語のラバースタンプをやれるロシア人についつい日本語でベラベラしゃべってしまったことが数回あったのだが、相手は全く理解していなかった。
つまり、 相手がペラペラしゃべると無意識のうちに相手の語学レベルを高く計り間違えて、自動的にそのレベルで対応してしまうことがわかったのだ。
つまり、こちらも分かり切ったフレーズだからといって流ちょうにしゃべってはいけない。
そんなことをすると英語ペラペラだと勘違いされてしまう。
相手が一度そうと思いこむと、それを訂正させるのは大変だ。
僕は決まり切った名前やQTHの紹介さえも、ゆっくりたどたどしく話すことにした。
「まーい。きゅー、てぃー、えいっち、いーず、ABIKOしちー。あばうとー、さーてぃーきろめーたーず、イースト、フローム、とうきょーう」
とにかくゆっくり話す。
すると相手もこのペースで話してくるし、簡単な単語しか使わなくなる。
たまにわからないことがあると、スペルアウトを頼む。
相手は嫌がるどころか面白がってくれることが多かった。
だから、僕が辞書を引いている間にいなくなることなど皆無だった。
1984年、大学4年のときにこの調子で2週連続で話したカルフォルニアの工学生が、スケジュールを申し込んできた。
これが初めてのスケジュールQSOだった。
「バイクはホンダなんだけど、家の前でクラッシュしてしまった。転倒したんだ。クラは何に乗っているんだ?」
「僕はスズキだよ。でも、BMWがほしいな」
「どうしてだ。日本のバイクの方が性能が良いじゃないか」
「ボクサーエンジンに興味があるんだ」
「そうか。ところでクラはアルバイトをしているのか?」
「実は来月からハンバーガーショップで働くのだ」
「なんだって? 日本人がハンバーガーを食べるのか?」
「当たり前だ。マクドナルドがたくさんあるぞ」
「信じられない! しかし、なぜ大学生がマクドナルドでバイトをするんだ。大学生ならもっと高度なバイトをすべきだ」
「かわいい女の子がたくさんいるからだ。僕はハンバーガーよりもそっちを食べたいんだ」
「あきれた野郎だ」
こんな会話をしていたのだが、このスケジュールは彼の大学卒業とともに終了した。
最近彼のコールサインをQRZ.COMで検索したら、まだ無線をやっていることがわかった。メールでも出してみようかと思ったけれどやめておいた。
「久しぶりだなクラ。ところでクラ、あのときマクドナルドでは、キューティなガールをゲットできたのか?」
なんて聞かれて、
「残念ながらマクドナルドでバイトをする若い女性たちは、僕の魅力を理解することが出来なかったようだ、はっはっは」
なんて回りくどく答える英語が思いつかないし、
「全く相手にされなかった」
と簡潔に答えるのもしゃくだからだ。
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