1983年頃だったと思う。僕はその夜、あるDXペディションをワッチしていた。
21メガのアンテナで聞いている28メガのペディション。
それでもかなりの信号で聞こえるのだから、コンディションは良いようだ。
「28のアンテナがあればなぁ」
そう思いながら、行き交うCWを聞いていた。
スプリットQSOで、相手の指定はUP5。
5k上を聞いてみると団子状にゴワゴワゴワと音がする。この中からCWとして信号を拾うのは大変だろうと思った。
いたずら心が働いた。僕は買ったばかりの外部VFOで15kHz上に送信周波数を設定し、その局をコールしてみた。
相手が聞いているはずもない周波数であり、SWR もめちゃくちゃだけれど所詮10W機だから短時間ならファイナルがすっ飛ぶこともないだろう。
そう思って、パイル参加の雰囲気だけ味わいたくて、一度だけ コールしてみた。
「DE JO1QNO」
すると間髪入れずに、
「JO1QNO 599」
とコールバック。びっくりした。慌てて僕もレポートを送った。
「R 599 TU」
しばらく呆然として、それからCQ誌をひっくり返し、QSLマネージャーを捜した。
そんなことをしていると、アパートの電話が鳴った。
「もしもし?」
「無線やってるひと、いますか?」
「あのーぼくですが」
「お宅、JO1QNO?」
「はいそうです」
「わたしね、JA4○×△だけどね、あんた、何ワットだしてるの?」
「は?」
「今のペティション、何回呼んでとったの?」
「一回です」
「一回・・・・・・。俺ね、2時間コールしてるんだよ、500Wで。あんた、コールブック見ると10W局じゃない。何ワット出してるの?」
とても高圧的だった。
「たぶん今のは、5Wくらいかな。調整してなかったしアンテナが違うんで」
そう僕が正直に答えると、相手は一瞬黙ってから続けた。
「5? なにそれ。どゆこと?」
「あのーつまり、リグはTS-830Vで、21の調整のまま21のアンテナでバンドだけを28にして呼んだので、そんなもんです」
「本当に?」
「はい。たぶん、15kも上で呼んだのでたまたまとってくれたんだと思います」
「15k? ほんと? そうなの? 15kだね!、15ね! ガチャ」
電話は切れた。
その後、あのJA4のOMがQSOできたかどうかはまったくわからない。
しかし、いきなりあんな電話をもらったのは後にも先にもこれきりだった。
「10W」だとか「100W」だとか言われたら「うそつけ!」と食いついて来たのかも知れないけれど、「5W」というのは彼にとって想定していない返事だったのだろう。
それにしても、「DXerっておっかねえなぁ」と思える事件だった。
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