アマチュア無線よもやま話

Amateur radio station JO1QNO

お尻に焼き印

2025-10-07 09:44:24
目次

 1986年頃、当時僕は一人暮らしだった。一人で古い一軒家に住み、無線はHFからUHFまでQRVしていた。
 夜中のラグチューはもっぱらお酒を飲みながら楽しんでいた。宵の口になるとほとんど酔っ払い状態で、たまにはろれつが回らなくなることもあった。
 ある真冬の寒い夜、僕はいつものように日本酒の熱燗を飲みながらローカルラグチューに花を咲かせていた。

「○○のペディション、とれた?」
「だめだめ。100Wじゃ無理ね」
「14ならちょろいよ」
「だめだめ。俺、14はダイポールだし」
 DXの話に花が咲いていたのだが、どういう訳か途中で話題が変わった。その話題は、「オナラは燃えるか?」というくだらないものだった。
「絶対燃えるよ。俺、見たもん」
「やったのかよ?」
「やってないけど、俺、見たもんテレビで」
「いるんだよな~、テレビとかすぐに信じる奴」
「まじだって。ちゃんとパンツ脱いでオナラを火にかけたら、ぼっと燃えるんだ」
 言い合いをするほどの話題じゃないのだが、やたらに熱かった。
 その争いを聞いていた僕は、彼らに宣言した。
「よし、俺がジャッジするよ」
「どうやって?」
「今俺がここで、実験する!」

 ちょうどオナラをもようしてきたところだった。しかも、僕のシャックでは暖房のために対流式のストーブが部屋で熱くなっていた。
 対流式のストーブとは、上にやかんを乗せてお湯を沸すことができる、あれだ。
「ちょっとまっててね。実験したら報告する」
 僕はそう言って無線から離れた。

 僕は途中でオナラが漏れてしまわないようにお尻の筋肉の締まり具合を調整しながら、小幅のカニ歩きでストーブに近づいた。
 オナラの標的はストーブのドーム型の真っ赤に燃えている網だった。
 そこに炎が少し立っているので、それがターゲットだ。
 僕はパンツをおろし、お尻を突き出した。
 リスクマネージメントがなっていなかった。
 酔っぱらいは安定感に乏しく、平衡感覚に障害を帯びているということを僕はこのとき認識していなかった。
 僕はなぜかよろめくと、そのままストーブの上に座ってしまったのだ。
 しかし、焦らなかった。なぜならば、熱くないからだ。
「熱くないじゃん」
 これだから酔っぱらいはこわい。
 状況の把握が瞬時にできないのだ。
 しかし、体を切り裂くような痛みはその直後に襲ってきた。
「うぉーーっ!!」

 カチカチ山になった僕は、シャックの家の中を走り回り、叫んだ。そしてシャックがある2Fから階段を駆け下りると、庭に飛び出した。
 無意識のうちに僕はあるものを求めて庭に飛び出したのだ。
 それはアロエだ。
 僕は庭に栽培してあった鉢植えのアロエを剥いては、焼けただれたお尻にすり込んだ。
「うぉーーっ!」
 住宅街の一角の庭で、下半身を露出させて叫びながらお尻にアロエをすり込んでいる男を想像して欲しい。
 それを、向かいに住んでいる女子高生が窓からじっと見ていた。
 それまで会うたびに挨拶していたこの子は、それから嫁に出ていくまで僕とは一切口をきかなくなった。

  お尻の状態はというと、椅子に座れる状態ではなかった。
 会社に行っても痛くて着席できない。
 お尻の端っこを椅子に引っかけておく程度にしか座れない。
 もちろん真実を語るわけにも行かず、自然と「倉持はかなりひどい痔になった」ということで、周りの上司や同僚は哀れんでくれ、中には勝手に「痔仲間」を名乗って痔談義に燃える上司までいたのだが、全く嬉しくない。

 僕が座ったストーブには僕が座ってしまったその場所に「コロナ」というロゴが入っていた。したがって僕のお尻には数年間、コロナをひっくり返した文字が焼き印されていたのである。

「というわけで、俺のオケツには焼き印があるんだよ」
「うっそー!まじぃ?」
 不思議と合コンではこの話題が女の子にうけた。調子に乗った僕は、
「ねね、見たい? 見たい? んじゃ、今度ゆっくり焼き印を見られる場所に二人で行く?」
 という手口で合コン相手を口説きにかかっていた。
 それが成功したかどうかは、何かの機会にアイボールできた方だけにこっそり教えてあげましょう。


この記事を書いた人

JO1QNO クラ

1982年開局のアマチュア無線家です。 海外交信、国内交信、コンテスト参加などで楽しんでいるアマチュア無線家です。 ご意見ご希望はjarl転送メールにて!