1984年、大学4年の夏休み。僕は大学の仲間と一緒に移動運用をしに山の上に出かけた。50MHzのリグ1台と50Wのリニアアンプ。電源は車のバッテリー。アンテナは4エレ八木。
「CQ CQ CQ こちらはJO1QNO/1」
CQを出すとたくさんの局が呼んでくれる。運用場所がたいして珍しいところでもないので、「移動運用しているんだから呼んでやるか」という移動局へのサービス精神で呼んでいる人がほとんど。珍エンティティのDXを呼ぶのとは逆の立場だ。ありがたや、ありがたや。
しかし思いかげずもかなり遠方からもコールがあって、わくわくする場面もあった。そうなると、弱い局を拾っていこうという考えに走り、強い局は後回しになる。
そんなとき、蚊の鳴くような弱い信号でのコールがあった。
「こりゃ弱い。7エリアかな?」
アンテナを北に向けてあったのでそう思う。
ところが、数分間かけて何度もコールを繰り返してもらった結果、コールしてくれたのは1エリアのJL1局だった。
「こちらから31です」
移動運用じゃ珍しいレポートを送った。そしてあちらからのレポートが来る。
「とれません、もう一度お願いします」
とにかく弱い。とれない。
「え、なんですか? もういちど!」
数回要求して、
「了解しました。ありがとうございました。QRZ?」
と次のQSOに移った。
すると今度はえらい強烈な局が呼んできた。Sメーターが張り付きそう。
「はい。JL1○×△どうぞ」
と自分で言ってみてから、「あれ?」と思った。さっきまで蚊の鳴くような信号だったその局と同一コールサインなのだ。
バンドもモードも同じなのにまたすぐに呼んでくるとはどういうことか。
すると、JL1氏はこういった。
「さっき、わたしのレポートとれました?」
「はい、とれましたよ。だから了解と申し上げました」
「ふーん。じゃ、なんて言ったか、言ってみてよ!」
「なんでですか?」
「別にいいからさ。こちらが送ったレポート、教えてくださいよ」
「ええと、どういうことなんですか?」
「わたしが送ったレポートを、復唱してみてくれと言ってるんです」
「なんのためですか?」
「なんだって良いだろ」
いったい何なんだ。僕はよくわからないまま、彼に返答をした。
「34とコピーしましたが、違いますか?」
すると、しばらく沈黙があり、JL1氏のトーンが変わった。
「あ。とってたんですね。そうですか・・・・・・」
僕には何が何だかさっぱり訳がわからなかったのだが、ここで思いかげず解説者が登場したのだった。
「ちょっといいですか、こちらはJA1○×」
と、2文字OMから声がかかった。
「はい、なんでしょうか?」
すると、OM氏がこういった。
「お 聞きの皆さん。こちらはJA1○×。今起きていることをちょっとわたしに解説させていただきたい。つまり、今のはJL1○×△がJO1QNOに罠を仕掛け たんです。まず、QNO局がレポートをとれないような弱い信号でわざと呼んだわけですね。移動局は他の局を待たせているから先に進みたい。そこでレポート をとったことにして適当に済ませてしまうことがある。JL1○×△はそれをわざとQNO局に仕掛けて、ここをワッチしている皆さんの前でつるし上げて、恥をかかせようとしたわけです。ところがQNO局がしっかりレポートをとっていたので、ぐうの音も出なくなった、というわけです。そうですよね、JL1○× △? 君は以前もそれをやってたね。常習だよね?」
しかし、JL1氏の信号がそれに答えることはなかった。
考えてみれば、こちらの言うことは簡単に了解していたくせに、了解度が3というのは変だった。34という普通は無いような組み合わせのレポートを送ったのも作戦なのだろう。
僕は移動運用終了後に自宅に戻ると、他の人に送るのとは違うQSLカードを自作した。カードの80%を「34」というレポートが占める巨大レポート表示のQSL。
20年以上経った今、果たしてJL1氏はあのQSLカードを持っているのだろうか。
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