アマチュア無線よもやま話

Amateur radio station JO1QNO

RSレポート交換の罠

2025-10-07 09:45:34
2025-10-07 09:49:16
目次

 1984年、大学4年の夏休み。僕は大学の仲間と一緒に移動運用をしに山の上に出かけた。50MHzのリグ1台と50Wのリニアアンプ。電源は車のバッテリー。アンテナは4エレ八木。

「CQ CQ CQ こちらはJO1QNO/1」
 CQを出すとたくさんの局が呼んでくれる。運用場所がたいして珍しいところでもないので、「移動運用しているんだから呼んでやるか」という移動局へのサービス精神で呼んでいる人がほとんど。珍エンティティのDXを呼ぶのとは逆の立場だ。ありがたや、ありがたや。

 しかし思いかげずもかなり遠方からもコールがあって、わくわくする場面もあった。そうなると、弱い局を拾っていこうという考えに走り、強い局は後回しになる。
 そんなとき、蚊の鳴くような弱い信号でのコールがあった。
「こりゃ弱い。7エリアかな?」
 アンテナを北に向けてあったのでそう思う。
 ところが、数分間かけて何度もコールを繰り返してもらった結果、コールしてくれたのは1エリアのJL1局だった。
「こちらから31です」
 移動運用じゃ珍しいレポートを送った。そしてあちらからのレポートが来る。
「とれません、もう一度お願いします」
 とにかく弱い。とれない。
「え、なんですか? もういちど!」
 数回要求して、
「了解しました。ありがとうございました。QRZ?」
 と次のQSOに移った。

 すると今度はえらい強烈な局が呼んできた。Sメーターが張り付きそう。
「はい。JL1○×△どうぞ」
 と自分で言ってみてから、「あれ?」と思った。さっきまで蚊の鳴くような信号だったその局と同一コールサインなのだ。
 バンドもモードも同じなのにまたすぐに呼んでくるとはどういうことか。
 すると、JL1氏はこういった。
「さっき、わたしのレポートとれました?」
「はい、とれましたよ。だから了解と申し上げました」
「ふーん。じゃ、なんて言ったか、言ってみてよ!」
「なんでですか?」
「別にいいからさ。こちらが送ったレポート、教えてくださいよ」
「ええと、どういうことなんですか?」
「わたしが送ったレポートを、復唱してみてくれと言ってるんです」
「なんのためですか?」
「なんだって良いだろ」
 いったい何なんだ。僕はよくわからないまま、彼に返答をした。
「34とコピーしましたが、違いますか?」
 すると、しばらく沈黙があり、JL1氏のトーンが変わった。
「あ。とってたんですね。そうですか・・・・・・」

 僕には何が何だかさっぱり訳がわからなかったのだが、ここで思いかげず解説者が登場したのだった。
「ちょっといいですか、こちらはJA1○×」
 と、2文字OMから声がかかった。
「はい、なんでしょうか?」
 すると、OM氏がこういった。
「お 聞きの皆さん。こちらはJA1○×。今起きていることをちょっとわたしに解説させていただきたい。つまり、今のはJL1○×△がJO1QNOに罠を仕掛け たんです。まず、QNO局がレポートをとれないような弱い信号でわざと呼んだわけですね。移動局は他の局を待たせているから先に進みたい。そこでレポート をとったことにして適当に済ませてしまうことがある。JL1○×△はそれをわざとQNO局に仕掛けて、ここをワッチしている皆さんの前でつるし上げて、恥をかかせようとしたわけです。ところがQNO局がしっかりレポートをとっていたので、ぐうの音も出なくなった、というわけです。そうですよね、JL1○× △? 君は以前もそれをやってたね。常習だよね?」
 しかし、JL1氏の信号がそれに答えることはなかった。

 考えてみれば、こちらの言うことは簡単に了解していたくせに、了解度が3というのは変だった。34という普通は無いような組み合わせのレポートを送ったのも作戦なのだろう。
 
 僕は移動運用終了後に自宅に戻ると、他の人に送るのとは違うQSLカードを自作した。カードの80%を「34」というレポートが占める巨大レポート表示のQSL。
 20年以上経った今、果たしてJL1氏はあのQSLカードを持っているのだろうか。


この記事を書いた人

JO1QNO クラ

1982年開局のアマチュア無線家です。 海外交信、国内交信、コンテスト参加などで楽しんでいるアマチュア無線家です。 ご意見ご希望はjarl転送メールにて!