アマチュア無線よもやま話

Amateur radio station JO1QNO

My 1st QSO

2025-09-20 22:23:20
2025-09-21 05:22:30
目次

開局するハムの多くが、開局する前に局免を待ちながらワッチをしていることだろう。
 そして、「記念すべき開局最初の相手は誰にしようか」と、それにふさわしい人を探すはずだ。

 ぼくが最初に購入したリグはナショナルのRJX-610という、50MHzCW/SSBの5Wリグで、内臓アンテナがついているものだった。
 


 1982年のこと。冬休みにの帰省時に東京で受講した電話級の講習会終了後、合格を確信したので秋葉原で買ってきた。
 1月に講習会を受けて従事者免許が届いたのが2月、無線局免許が届いたのが4月。つまり、冬休みに受講してオンエアできるのは春休みの後だというのだからのんびりした時代だ。
 この間に熱が冷めて全く無線をやらないで終わる人までいたほどだった。

 このころの50MHzは入門バンドで、1エリアでは毎日たくさんの人がオンエアしていて、ホイップアンテナでも常に数局聞こえるほどの盛況ぶりだった。
 しかし、冬休みが終わり7エリアに戻ると聞こえる局は皆無で、無線ショップでは50MHzのリグをおいていないという状態だった。
「7エリアではHFと2mバンドだけだ」
 無線ショップでそういわれて、もともと買うつもりだったTS-830Vに追加して2mFMのC88も購入した。


 忘れもしない、それは1982年4月26日の事だった。2mFMをワッチしていると、「CQ CQ CQ。こちらはJA7○×△ モービル」とワッチで何度も聞いたことのあるIさんの声が聞こえた。
 この頃はJAコールのOMさんは皆すごい人で、皆さん尊敬すべきハムなのだと思いこんでいたぼくは、早速彼をコールした。1stQSOには「アルファコールのOMさんがふさわしい」と思いこんでいたからだ。
 そして初QSOが成り立ったのだが、この人物(仮名Iさん)が自分の初めての交信相手であるということは、その後汚点に感じられることになるとは知りもせずに。つまり、このIさんはとんでもないオヤジだったのである。

 ある日、I氏のシャックにお招きを受けた。ぼくのDXの師匠であるR氏も、I氏をすばらしいDXerだと思っていたので、ぼくに同行することになった。
 I氏の家に着くとまずは3人でシャックにて無線談義をして過ごしいたのだが、少し気になったのはI氏が繰り広げる他のDXerたちへの悪口だった。
「あいつはこうだ」「こいつはこうだ」「あの野郎はとんでもない」
 その悪口はとどまるところを知らない。

 しばらくすると今度はI氏の見本運用が始まった。まずはSSB。ここで驚いたのがマイクだ。
 トリオのTS-820Sに取り付けたMC-50というマイクなのだが、このマイクはスタンド部分とマイク部分に分離できる仕組みとなっている。
 マイク部分だけにすればごく普通の歌手が握っているようなマイクになるものだ。
 I氏はこの本体部分のみをロック歌手のように構えて持ち、頭を左右に振りながら口を尖らせてDXをコールするのである。
 これはとても異様な光景だった。そしてぼくは思わず口走ってしまった。
「カラオケみたいですねぇ」
 ぼくのその言葉に笑いをこらえるR氏と、ぼくをにらみつけるI氏。ちょっとやばい雰囲気だった。

 しばらくすると今度はI氏がCWにモードを切り替えた。
「南米が出てますね。これを呼んでみましょう」
 I氏は機嫌を直してCWの運用を披露してくれた。
 しかし、I氏が必死にコールをするも、その局はM氏に持って行かれてしまった。
 そこでI氏は叫んだ。
「このMの野郎は、2アマのくせに500Wも出してるんです!」
 僕とR氏は互いに顔を見合わせた。なぜならばそう言っているI氏も2アマで、まさに今ぼくらの目の前で1kWのリニアをパカパカいわせているからだ。
「なんじゃ、このおっさん・・・・・・」
 ぼくもR氏もだんだんとそう思い始めていた。

 コールした結果はむなしく、I氏へのコールバックはなく、近所に住む有名DXerで二文字コールのY氏に南米局は持って行かれた。
 I氏がまた毒づく。
「Yの奴は二文字だからって威張っていて、全く気に入らないんです。こいつが出てくるとローカルだから、バンド中がびりびり言って、頭に来ます!」
 そりゃY氏にとっても同じだろうと思い、僕らはまた互いに顔を見合わせた。
 I氏はなんとか南米局を仕留めると、次のターゲットを求めてVFOを回した。
「ほら、またバリバリ言ってる。Yの奴がまた何かをコールしてるんですよ」
 Y氏の信号はすぐに見つけることができた。カリブの局を見つけてコールしていたのだ。しかしそこはパイルになっていた。
「ふん。ざまあ見ろ。とれなかったですね、Yの奴」
 数回コールしてもとれないY氏に、I氏は悪たれをついていた。

 ところが、その時カリブ局がY氏のサフィックスを打って「?」をつけた。それに反応してY氏は自局のコールサインをフルに打って、相手にRSTレポートを送った。
 当然次はカリブ局がY氏のコールをフルで打ち直し、RSTを送ってくるはず。
 ところがここでI氏は信じられないような行動に出たのだ。
「こんな奴、こうしてやるんです!!」
 I氏はそういうと、
「ツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツ」
 とエレキーで短点を連打し始めた。
 しかも、ニカッと笑った顔のまま短点を打ち続け、その間中、両足を交互にピョンピョン上げて喜びを表しているのだ。
 まるで俳優が異常者を演じているような、そんな状況だった。
 
 I氏の妨害が終わると、いつの間にかカリブ局は他の局と交信を始めていた。
「へっ、これでYは交信不成立です。へへーんだ!」
 ぼくとR氏はI氏のあまりの奇行に驚いて、ひっくり返りそうだった。
 僕らはI氏からの食事の誘いを辞退して、帰路についた。

 I氏はその後も近所のOMとしてDXerとして元気に活躍していたが、僕が社会人になって7エリアを離れた10年ほど後に聞いた話では、「あまりに異常な行動をとるためローカルの鼻つまみ者になってしまい、無線をやめてしまった」とのことだった。
 
 今でもペティションの邪魔をしてビートをかける局を見つけると、そのたびに僕はあの異常な笑顔を思い出してしまうのである。


この記事を書いた人

JO1QNO クラ

1982年開局のアマチュア無線家です。 海外交信、国内交信、コンテスト参加などで楽しんでいるアマチュア無線家です。 ご意見ご希望はjarl転送メールにて!